ローン天秤loan-tenbin
住宅ローンは負債です。でも「いまの金利で、長く借りられる立場」には値打ちがあります。手放すと、同じ条件では二度と手に入りません。
2026-09-22
4000万円を、1%台で、35年。個人がこの条件でお金を借りられる手段は住宅ローン以外にありません。家を担保に入れているから成り立っています。
使いみちが自由なお金を借りようとすれば、金利は何倍にもなります。前の記事で書いたとおり、繰上返済はいつでもできますが戻せません。戻せないのは手元の現金だけではありません。この借入条件そのものが戻ってこないのです。
固定 3.46% で借りているとします。世の中の金利が 5% になったら、あなたは市場より 1.5pt 安く借りていることになります。
この得は測れます。これから払う金額を、いまの市場金利で割り引けばいい。それがその負債のほんとうの値打ちです。
| 残債 | 市場 4.5% で割引 | 市場 5% で割引 | 市場 6% で割引 | |
|---|---|---|---|---|
| 契約直後 | 4,000万円 | 3,474万円 | 3,257万円 | 2,883万円 |
| 5年後 | 3,679万円 | 3,244万円 | 3,062万円 | 2,742万円 |
| 10年後 | 3,298万円 | 2,958万円 | 2,812万円 | 2,551万円 |
| 15年後 | 2,845万円 | 2,598万円 | 2,491万円 | 2,295万円 |
契約した直後に市場が 5% になったら、4,000万円 の借金の値打ちは 3,257万円 に下がります。差の 743万円 は、あなたの得です。金利が上がるほど、この得は大きくなります。
ここから先が本題です。
10年後、残債は 3,298万円。市場が 5% なら、その負債の値打ちは 2,812万円 しかありません。繰上返済で全部返すというのは、2,812万円 のものを 3,298万円 払って消すことです。
486万円 を捨てています。安く借りているという有利な立場を、わざわざ額面で買い戻しているからです。
これは全期間固定の話です。変動なら金利が市場と一緒に動くので、この含み益は生まれません。そのかわり、金利が上がったときの繰上返済には別の意味があります(繰上返済と運用を参照)。
借金の値打ちを下げるものが、もう一つあります。物価です。
毎月 164,391円 という金額は35年変わりません。でもお金のほうの値打ちが下がっていきます。35年後に払う 164,391円 は、いまの 164,391円 と同じ重さではありません。
| インフレ率 | 名目 | いまのお金で | 物価が肩代わりした分 |
|---|---|---|---|
| 0% | 6,904万円 | 6,904万円 | — |
| 1% | 6,904万円 | 5,824万円 | 1,081万円 |
| 2%(日銀の目標) | 6,904万円 | 4,963万円 | 1,942万円 |
| 3% | 6,904万円 | 4,272万円 | 2,633万円 |
物価が年 2% で上がるなら、1,942万円 を物価が肩代わりします。返済額は一円も変わっていません。変わったのはお金の値打ちのほうです。
これは全期間固定だから効く話です。変動では、物価が上がれば金利も上がりやすい。肩代わりしてもらった分を、金利の上昇で返すことになります。
ここまで、借金が資産のように見える話をしてきました。最後に逆のことを書きます。
これが成り立つのは、返済を続けられる場合だけです。滞れば担保を失います。含み益もインフレも関係ありません。
団信も同じです。亡くなったときに残高がゼロになる保険がついているので、残高はある意味で保障額でもあります。繰上返済すると、その保障も減ります。
だから順番は変わりません。生活を守るお金が先。その次に、ゆっくり考えればいい話です。繰上返済は、あとからいくらでもできます。